「なぜ成功できたか?」を聞きたがる人って多いですよね? でも、そんなこと聞いてどうするのでしょうか。仮に同じことが実践できたとしても、同じように成功できるとは誰も思っちゃいないですよね?
同じように成功するのは無理としても、成功者の話には何らかのヒントがあるんじゃないか?きっとそういうことを期待しているのだと思いますが、考えてみて欲しいのは、成功しなかった人の話は誰も聞こうとしない点。もしかしたら成功しなかった人も成功者と同じことをしていたかも知れません。いわゆる「生存者バイアス」ですね。
例えば、成功できた理由を聞かれて、「自分を信じて、あきらめずに続けたから」などと答えている人をよく見たり聞いたりしますが、こーいう話を真に受けて、素質がない人が自分を信じて突き進んだりしたら、成功確率が上がるどころか、撤退タイミングを逃してドツボにはまってしまうだけです。
まあ、私自身も、「やりたいことをやるのが一番」などと言っていた時期があるので大きなことは言えないのですが、「自分がやりたいことって何だろう?」などと悩み出す人をこれ以上増やさないためにも、ここでは逆に「成功しない方法」について書くことにします。ちなみに「成功しない=失敗」ではありません。失敗は成功の元ですから、むしろ大いに失敗すべきです。
「成功しない方法」を避けたところで成功する保証は何もありませんが、多くのエンジニアが残念なことにこの「成功しない方法」を忠実に実践し、その必然的な帰結として、どんどん成功から遠ざかってしまっています。近年、「エンジニア」という職種が報われない職種になってしまっている一つの原因が、このあたりにあると感じる次第です。
もちろん、いままさに「成功しない方法」を実践している人に対して、このままでは成功からどんどん遠ざかるぞと忠告したところで、そう簡単に方向転換はできないものだとは思いますが、もし、いま「このまま進んでいていいのだろうか?」と思っているなら、少しばかり耳を傾けて頂けると幸いです。
誌面が限られているので、いきなり結論からいきます。「成功しない方法」とは、「選択肢を減らすこと」です。
選択肢と言われてもピンとこないかもしれませんが、人生には分岐点が沢山あります。たとえ八方塞がりに思えるドツボな状況に陥ってしまっていても、その後の分岐点で最適な選択さえできれば、ピンチがチャンスになったりします。ただしそれは、分岐点に選択肢の幅が十分にあればの話です。選択肢が多ければ、リカバリのチャンスがあるということですね。
例えば、選択肢を減らす典型的な方法が、借金をすることです。多くの人が 20〜30年もの長期ローンを組んで家を買ったりしますが、転職したくなったりしたとき、毎月十数万円の返済は重い足枷となるでしょう。借金がなければ思い切って生活を変える選択ができたかもしれないのに、借金があるばっかりに渋々現状維持を続け、ついにはリストラの憂き目に、なんてのはよく聞く話です。
でも、借金よりもっと選択肢を減らす方法があります。それは、自分の気持ちを優先すること。よくいますよね、「これは自分の仕事じゃない」とか言う人 (>_<)。その仕事がどんな仕事か十分に知り尽くしていて、「その仕事をする」という選択肢を除外することが合理的であるなら構わないんですが、多くの人はどんな仕事か知りもしないくせに、「自分の気持ち」だけで判断してしまいます。もしかしたら、やったことがないその仕事に挑戦することが、自分の人生の一大転機になるかも知れないのに。
あるいは、「自分がやりたいことって何だろう?」などと悩む人がいます。「やりたいことを仕事にすべき」などと (私を含めて orz) 多くの人が言ってますが、誰だって最初からそれが「やりたいこと」だったわけではないんです。なにかのはずみに始めたことが、やってるうちに (少し) 好きになり、好きでやるからどんどん熟達し、他の人よりうまくできると余計に好きになり、という好循環にはまって「やりたいことが仕事になる」んです。つまり、最初は好きでなくても自分の気持ちを無視してやってみなきゃ選択肢は増えません。それなのに、悩んでるばかりで始めないから、だんだん歳をとって、やってみるチャンスすら失われてしまいます。
また、多くの人は批判するのが大好きです。昔は飲み屋で、いまだとブログや SNS で、「上司が悪い」「会社が悪い」「社会が悪い」「政治家が悪い」。なぜ人は批判するのでしょう?社会をよくするため?とんでもない、愚痴を言ったって社会は少しも変わりません。誰かを批判すると、その人より自分が偉くなったような気分になれるから、人は批判するのが大好きなのです。
でも、批判によってよくなるのは「自分の気持ち」だけで、自分自身は決してよくはなりません。なぜなら、誰しも成長するには他人から学ぶ他ないからです。でも、「彼はバカだ」と言ってしまったら、その「彼」からは学べません。選択肢がまた一つ減るわけですね。本当に学ぶことが一切無いようなバカなら学ばなくてもいいのですが、ほとんどの場合そうではないでしょう。本当は、学ぶところが一切無いような人に対しては、批判する気にもならないはずです。
自分の気持ちを優先して選択肢を減らす例はまだまだ沢山あるのですが、誌面が尽きたのでこの辺で... もしこの手の話に興味があれば、私のブログ (「仙石浩明」で検索!) を参照してください。
以上は、 Software Design 誌に寄稿したエッセーです。 2013年1月号 第2特集 「キーパーソンに聞く 2013年に来そうな技術・ビジョンはこれだ!」 に掲載されました。 技術評論社さんの許可を得て、 全文を転載しています。